防犯
背景・目的
近年の社会・経済構造の変化がもたらした生活の利便性は、犯罪者、被害者候補となる一般の人々、取り締まる警察のそれぞれの行動に 影響を与えています。刑法犯の認知件数は増加を続けており、2002年には2,853,739件と戦後最悪の数値を更新しています。検挙率も20%まで 低下しており、「安全神話」は崩壊したといってよいでしょう。こうした現状にともない、市民の犯罪に対する意識も変化してきており、防犯に 高い関心を示すようになってきています。生活における利便性の追求という方向性をもつ現代社会において、防犯という観点と一致しない場合も 多いという認識を踏まえ、現在の犯罪発生の実態を正確に把握したうえで、効果のある防犯対策を策定していく必要があります。
従来、都市の安全についての議論は主として、地震や火災や水害等の物的な被害のみに関心が向けられ、都市計画と防犯は関係ないものとして 考えられがちでした。そのため、日本では犯罪に対する安全性を欠いたまま都市形成が行われてきました。その都市構造は犯罪に対する脆さを 内包しているため、そうした都市空間の死角を突いた身近な犯罪が多発し、国民の脅威になってきています。こういった状況を改善し高い防犯水準を 維持していくには、都市の物的構造そのものが備える防犯性能の向上が重要な決め手として浮かびあがってきます。したがって、都市や建築の 計画・設計の段階から防犯性能に関する検討をすること、既存の市街地の空間構造や土地利用を計画的に誘導変化させることで、犯罪に対して 抵抗力のあるまちづくりを進めていかなければなりません。本来の都市の機能からすれば、住環境、都市環境に関わる根本的要素として、まちの中に、 あるいは建物の中に前もって防犯性能を埋め込んでおくことは、都市計画や建築の分野では大変重要なことであり、そのあり方を模索することが 重要課題となっています。
目的
建築の環境設計による犯罪防止を目的とした研究は、アメリカ合衆国をはじめ、ヨーロッパ諸国において盛んに行われ、住宅団地や 公共住宅の設計や改善により、犯罪防止を目的に実施されています。アメリカにおける防犯環境設計は物的環境のみならず、社会環境の改善を 含む総合的手法となっています。
環境設計による機会犯罪の予防モデル
日本においても、この「環境設計による犯罪予防(CPTED)」が取り入れられてすでに約20年が経過し、日本に適応したCPTED手法の構築が なされてきています。しかし、いまだ日本に適応したCPTED手法が実現しているとは言い難く、日本において防犯環境設計を実際の施策に 応用するには、以下のような問題を抱えています。
住宅などの物的環境要素が欧米とは大きく異なること。
犯罪の発生頻度が欧米に比べて少ないこと。
この犯罪状況の違いから、日本の環境の中で物的環境と犯罪の関係を定量的に検証することが困難であること。
物的環境と犯罪の因果関係は、犯罪者の心理的要素に大きく依存するものであり、犯罪手口により異なり、普遍的な因果関係を決定できないこと。
これらの問題点を踏まえると、さらなるデータの蓄積及び犯罪種別の詳細な調査研究の蓄積が不可欠です。犯罪と環境の様々な因果関係を 明らかにし、実際の都市計画に応用していくことを目的としています。
研究内容
近年の当研究室における防犯に関する過去の論文は下記の通りです。
街区特性からみた犯罪発生構造に関する研究(横山,2004年度修論)
防犯に配慮したまちづくりに関する研究(藤井,2004年度修論)
子どもが遭遇する犯罪発生現場の空間的要因と通学路の安全性について(横山,2002年度卒論)
現代都市における街路犯罪発生構造と市街地属性との関係に関する研究(高松,1999年度修論)
都市における犯罪発生要因に関する研究(高松,1998年度卒論)
都市における歩行者経路属性と犯罪の関係について(野田,1998年度修論)
2005年度は、村上、森本が防犯に関する研究を進めています。