復興~被災者の生活をいかに回復させるか~
背景・目的
1995年に発生した阪神・淡路大震災から10年が経過しました。この震災は、瞬時に数多くの尊い命を奪い、家屋をはじめあらゆる都市基盤の 構成物に甚大な被害を与えました。わが国は、この阪神・淡路大震災に代表される地震災害以外にも、火災、津波、台風、集中豪雨、火山噴火などの 自然災害の脅威に常にさらされてきました。2004年には、相次ぐ台風上陸や集中豪雨による全国各地での水害被害、阪神・淡路大震災以降で最も被害が 大きい災害となった新潟県中越地震、2005年に入ってからは福岡県西方沖地震が発生しています。
近年では事前対策、規定の強化、防災技術の発達などにより、災害規模は大幅に軽減されるようになってきています。とはいえ、 完璧な防災対策を行うことはできず、現に災害による被害は発生し続けています。そこで、災害後の被災者の生活をいかに回復させるかという点を 追究する必要があります。
防災は下図のようにフェイズに分けられます。
この時系列的な防災サイクルも、わが国の防災対策の展開では、「事前防備」と「応急復旧」に傾斜しすぎており、都市の構造や体質そのものを 強くするという抜本的な取組みは後回しになっています。そのなかで、よりよい「恒久復興」に着目し、「体質改善」につなげていくことが 重要ではないかと考えられます。国内外の被災地における調査等を通して、災害からのよりよい復興について考察・提案を行うことを目的とし研究を 進めています。
内容
近年の大規模な災害に見られるように、わが国は自然災害に頻繁に見舞われてきており、当研究室ではそれに対応して多種多様な研究を 行ってきました。
阪神・淡路大震災からの復興を軸に、各災害の復興過程やその現状は実際にどうであるのかといった課題を追究していくことを目指しています。 震災後の仮設住宅、住宅再建、復興過程やその担い手、コミュニティ等をテーマとし、被災者を対象としたアンケート調査等も行っています。
以下に、近年当研究室が行ってきた復興調査・研究についておおまかに紹介します。
新潟県中越地震後の住宅再建過程に関する研究-早期の生活安定と将来の安全確保を考慮した復興に向けて-(大友,2005年度修論)
大規模地震災害後の住宅復興システムに関する研究(樋口,2004年度修論)
災害復興公営住宅団地における高齢者のコミュニティ形成に関する研究(櫟原,2002年度卒論)
復興まちづくり地域における復興の現状と評価に関する研究―阪神・淡路大震災被災者の復興意識調査を通して―(樋口,2002年度卒論)
小規模都市の災害復興都市計画に関する研究―1972年丹後震災における峰山町―(追谷,2001年度卒論)
まちづくりにおけるコミュニティ・ビジネスの役割に関する研究―全国先駆事例と阪神淡路大震災の被災地での活動を通して―(堀川,2001年度卒論)
災害復興コレクティブハウジングの居住実態と運営に関する研究(渡辺,2001年度卒論)
災害後のまちづくり活動における民間非営利団体の役割と有効性に関する研究―阪神淡路大震災後の復興過程における活動の検証―(薗頭,2001年度修論)
大規模地震災害後の住宅再建支援方策に関する研究(谷山,2001年度修論)
まちづくり専門家による支援の現状の問題点と職能確立に関する研究―阪神淡路大震災のまちづくり支援活動の課題から―(吉田,2001年度修論)
災害後の都市復興計画と住宅供給計画に関する事例的研究(越山,2001年度博論)
台湾地震における住宅復興に関する研究(邵,2001年度博論)
1990年ルソン島地震とこれからのフィリピン(林,2000年度卒論)
災害時における住宅再建過程に関する研究(二宮,2000年度修論)
震災復興土地区画整理事業区域における住宅再建に関する研究(谷山,1999年度卒論)
GISを利用した住宅再建支援システムの構築について(山口,1999年度修論)
福井地震復興計画に関する研究(木村,1998年度修論)
神戸市戦災復興計画に関する研究(高松,1997年度卒論)
阪神・淡路大震災での住宅再建過程の課題に関する研究(生田,1996年度卒論)
大震火災地における復興計画に関する研究(越山,1996年度修論)
被災住宅地の復興におけるまちづくり支援に関する研究(瀧沢,1996年度修論)
中国・唐山地震の復興過程に関する研究(孫,1996年度修論)
災害ストレスと生活環境との関わりに関する研究―阪神・淡路大震災における応急仮設住宅居住者を例として―(大村,1995年度卒論)
被災者の住宅再建過程とその支援方策に関する研究―阪神・淡路大震災を例として―(原田,1995年度修論)
「大規模災害後の復興プロセスにおける住宅再建支援に関する教訓 資料集」
■近年の主な国内調査
新潟県中越地震からの復興過程
新潟県中越地震後の生活再建に向けた動きについて、現在、調査・研究を進めています。さしあたって、生活移行過程や住民の意向を 把握するため、2004年に現地調査を、2005年に被災者を対象としたアンケート調査を行いました。
2004年新潟豪雨、福井豪雨後の再建
2004年、豪雨後の再建の展望をみるため、現地調査を行いました。
(上段:新潟、下段:福井)
雲仙普賢岳噴火災害からの復興状況
2003年、噴火から13年が経過した被災地の復興状況を把握することを目的に、被災者へのアンケート調査と現地調査を行いました。 ハード面よりソフト面においての課題が目立ちました。まちの活気の喪失や交流の希薄さを感じている人が多く、高齢化や産業衰退などの 社会的な問題を重層的に抱えていることが明らかになりました。2004年にも現地調査を行いました。
北海道南西沖地震からの復興状況
2003年に北海道南西沖地震から10年が経過した被災地の復興状況を把握することを目的に、被災者へのアンケート調査と現地調査を 行いました。住宅の再建や補修の費用で借金をしてしまうことが、その後の暮らし向きに影響を与えるなど、ハード面よりソフト面においての 課題が目立ちました。2004年にも現地調査を行いました。
阪神・淡路大震災の被災者の復興実態
1996~2003年にかけて、阪神・淡路大震災の被災者を対象に、読売新聞大阪本社と共同で継続的にアンケート調査を行いました。 この他にも、研究を行うにあたって多くの調査を行っています。
■近年の主な海外調査
スマトラ沖地震・インド洋津波からの再建状況(スリランカ)
2005年、スリランカにおいて津波の被害と住宅再建について現地調査を行いました。
インド・グジャラート地震からの復興(インド)
2003年、2005年に現地調査を行いました。
台湾集集地震からの復興(台湾)
住宅再建を中心とした復興状況についての現地調査、アンケート調査を行いました。
唐山地震からの復興(中国)
【引用・参考文献】
樋口大介:大規模地震災害後の住宅復興システムに関する研究、平成16年度神戸大学大学院自然科学研究科修士論文(2005)
室崎益輝:都市防災 ―復旧復興そして物的減災へ―、新都市平成16年1月号、(財)都市計画協会、(2004)