街区特性に応じた密集市街地の火災リスク低減対策に関する研究
背景
都市直下型地震、南海トラフにおける海溝型地震など大規模地震発生の危険性から、地震に対して極めて脆弱な木造密集市街地の整備は 緊急的な課題となっています。密集市街地では、住宅の老朽化、公園・ポケットパーク等の空地の不足、狭隘道路、狭小敷地、無接道宅地といった ハード面の問題から、災害時の倒壊、延焼の危険性が高く、避難や消防活動が困難になるなどの恐れがあります。また、このような地域では 若年層の転出や居住者の高齢化に伴い、地域の防災力が低下していると言えます。以上の理由から、老朽住宅の早期の建替えを促進していく必要が ありますが、法規制における問題や権利関係の輻輳、居住者の高齢化等の要因が複雑に絡みあっているため、建築物の自律的な更新が進んでいません。
木造密集市街地の防災性能を向上させるための手法としては、既存道路の一部拡幅や小公園の設置、老朽住宅の建替え促進による不燃化など、 修復型の事業(密集住宅市街地整備促進事業)が中心となっていますが、遅々として進んでいないのが現状です。また、京都や奈良など歴史的に 形成されてきた市街地において同様の手法をとることは、市街地がこれまで育んできた文化的価値やコミュニティを崩壊させてしまうことに繋がり、 好ましいとは言えません。そこで、今後密集市街地の防災性能の向上を図るには、地区の特徴や課題に応じた安全対策を講じる必要があります。
目的
安全対策を立案するには、まず地区の防災性能を定量的に評価し、地区の危険性を把握することが重要です。その上で、いくつかある 選択肢の中から最も有効な対策をとるといったプロセスが望まれます。そこで近年、地区の防火性能を評価するためのツールとして、 国土交通省防災まちづくり総プロモデル、東消式、京都大学田中・樋本モデル等各種延焼シミュレーションが開発されています。一方、 対策案については、これまでの建築物の不燃化、道路の拡幅といったハード的手法だけでなく、被害拡大の抑制要素である地区の防災活動能力を 評価し、対策案に含めていくことが有効であると考えられます。このような防災活動の1つとして、消防活動があげられます。現在、 地区レベルでの消防活動能力の評価指標としては「消防活動困難区域率」が一般的によく用いられますが、この指標だけでは市街地延焼をどこまで 低減させることができるのか把握することは困難です。
そこで本研究では、地域消防活動についてモデル化を行い、既存延焼シミュレーション(京都大学田中・樋本モデル)に組み込むことにより、 密集市街地の各街区特性に応じた火災安全対策について検討し、その効果を明らかにすることを目的としています。
方法
実市街地におけるケーススタディを行います。
京都市産寧坂伝建地区
大阪市阿倍野区阪南町
豊中市庄内地区
内容
木造密集市街地の分類・特徴
■歴史的木造市街地(ex)京都、奈良、伝建地区……etc
建物が燃えやすい材質で構成されているため、一般に防火性能の面で脆弱
老朽化
道路が狭く、緊急車両の通行が困難
日本固有の優れた街並み、文化的価値
=準防火地域に指定されている場合は、建替えの際に外壁をモルタル塗りにするなどの措置が要求されるため、建替えをしようとすると 景観破壊につながり、逆に景観を尊重しようとすると建替えができない
コミュニティ活動(自主防災活動)が活発な地域が多い
(写真:京都市産寧坂伝建地区)
■近代的密集市街地
明治後半から戦前にかけて耕地整理や区画整理等による都市基盤の整備経緯を持つが、住宅の更新が進まず老朽化した住宅が集積している。
特に近畿圏では、このような市街地が比較的多く見られる。(大阪市内、神戸市内)
耕地整理地区と区画整理地区では基盤整備の度合いが大きく異なる。区画整理地区の場合、基本的に接道条件を満たしているが、 裸木造の住宅が連坦するため施工性が低く建物更新が進んでいない。耕地整理地区の場合は未接道敷地がほとんどで、建物更新が進んでいない。
耕地整理地区
(写真:大阪市西成区橘)
区画整理地区
(写真:大阪市阿倍野区阪南町)
■スプロール型密集市街地
道路、公園等公共施設の不足、空間的秩序の喪失
低質狭小な木賃住宅の過密
街区内部の建物の防火性能の不足
(写真:豊中市庄内地区)